どうも!マンションの設計や施工監理を仕事にしているきったんです。
賃貸マンション事業大手のレオパレス21で複数の建物で建築基準法違反の建物があることがわかり大きなニュースになっていますね。いわゆる手抜き工事ですが、1324棟もの違法建築が一斉にみつかるなど前代未聞の大事件です。
手抜き工事の動機はまず間違いなくコストカットですよね。資材も人件費も節約できますし、工期を短縮できればより早く人に貸せて収益性も上がります。要は悪いことしても儲けたいということで、ロクでもない話です。
しかし、レオパレス21が「なぜこういうことをしたのか?」というのはなんとなくわかっても、「なぜこれまで発覚せずここまで問題が拡大したのか?」ということはあまり語られていないようです。
そこで今回はレオパレス21の違法建築問題はなぜここまで拡大したのかを制度面から考えてみたいと思います。
一応マンション建築の業界で設計と施工監理を仕事にしてきた人間ではありますが、今回のレオパレス21の事件に関して言えば完全な部外者のただの雑感ですのでそのつもりで読んでください。
隔壁が天井までしかなかった!
アパートやマンションなどの共同住宅では1戸1戸の住戸の間には法令で定められた隔壁を設ける必要があります。この隔壁は屋根まで達している必要がありますが、今回のレオパレス21で見つかった違法建築では天井から屋根までの間、いわゆる屋根裏部分に隔壁がなかったんですね。
住戸間の隔壁の役割は防音と防火です。どちらもとても重要なものです。
レオパレス21では隣の部屋の音が筒抜けでうるさいというのは昔からネット上でよく見かけるネタでしたが、防音のための工事が適切でなければそりゃそうですよね。天井裏の防音隔壁が無いってのは壁に穴が空いているようなものですからね。
共同住宅の隔壁は少なくとも火災が起きて隣の住戸に延焼するまでに45分以上耐える必要があります。実際には1時間くらいは耐えてくれるでしょうから、隣の部屋で火災が起きても十分安全に避難できますよね。しかし、屋根裏に隔壁が無いとそこを通じてすぐに火が回ってしまいます。屋根裏が一気に燃えれば2戸、3戸隣の住戸まで被害が可能性も高まります。
いずれにしても住民の安全性やプライバシーに関わるかなり悪質な建築基準法違反です。
なぜ建築確認の過程でわからなかったのか?
一定規模以上の建築物では建築確認という建築基準法に適合しているかという確認を受ける必要があります。
建築確認の手続きでは建築工事の前に図面等で建築基準法に適合しているかどうかの確認を受けて、建物完成後に完了検査を受けて最初に確認した図面通りに建てられていると認められると検査済証というものが発行されます。また、特定工程として定められている部分については建設途中に中間検査を受ける必要があります。この検査済証が無いと建物は使用することができません。
この建築確認は地方自治体の建築主事のみが行っていましたが、1999年からは民間の指定確認検査機関でも行えるようになりました。
共同住宅ではのべ床面積100㎡を超えると建築確認が必要です。100㎡以下というとかなり規模の小さなアパートに限られるので、今回問題になっているレオパレス21にアパートもその多くは建築確認を受けているはずです。また、問題になっているアパートは1996年〜2001年に着工した物件ということなので建築主事の確認を受けたものも指定確認検査機関の確認を受けたものもあるでしょう。
いずれにせよ問題の違法建築に当たるアパートは建築時に建築基準法に適合しているかどうかの審査を受けて合格しているということなんですよね。しかも、特定の指定確認検査機関と結託したものでもないわけです。
ではなぜ今回の違法建築が見過ごされてしまったのでしょうか?おそらく原因はこんな感じではないかと思います。
まず、今回のレオパレス21の問題では図面では建築基準法通りだったものが現場で図面で通り施工されていなかったというのは報道からわかります。そうすると現場での検査で図面通り施工されていなかったことを見抜けなかったということです。
天井裏は天井が完成してからでは見ることができません。したがって完了検査では確認できない部分ということになります。また、中間検査では特定工程のみで、自治体が個別に定めているものもあるもののの、主に建物の耐震性能などに関わる部分を見ることになり、隔壁が屋根まで到達しているか確認されなかったのでしょう。
僕の経験では隔壁の施工について目視で確認できない場合は工事記録写真などで確認するケースが多いように思いますが、昔は今より確認が緩かったのかもしれませんし、仮に確認されたとしても故意に手抜きをしている場合は写真を撮る部分のみきちんと施工していたという可能性もあります。
今回の件でこれだけ大きな問題になったのですから法改正などはなくても建築確認の際に重点的に見られる項目になり、同様の問題は今後なくなっていくのではないでしょうか?
サブリース方式でやりたい放題?
レオパレスのビジネスモデルはサブリース方式と呼ばれるものです。サブリース方式ではオーナーがアパートの建築費を出し、建築からその後の管理までレオパレス21が行うことになります。建設後30年など期間を決めて一括して借り上げて賃貸アパートとして運営する方式です。
アパートの建築から管理まで手間がまったくかからず、さらに一括借り上げなので空室による収益性の悪化といったリスクも無いというのが謳い文句で、レオパレス以外にも多くの不動産業者が手がけています。
しかし、サブリース方式だとオーナーはアパートの建設から管理までほとんどノータッチということも珍しくないということですから、わかりづらい部分で手抜き工事をされていても気づかない可能性が高く、レオパレス21側のやりたい放題だったということではないでしょうか?
ちなみにサブリース方式ってやっている不動産業者の営業さんは良いことばっかり言いますが、トラブルも多いものなんですよね。
そもそも建築から管理まで全部やってちゃんと儲かるなら自社で金だしてやりますよ。それを個人のオーナーに出資させるということはうまくいかなかった時のリスクをオーナーに持たせたいからです。
30年とか35年一括借り上げといっても数年に1度は家賃の見直しがあるので利益が上がっていないと強引に家賃を下げようとしたり、一方的に解約なんてトラブルも実際に起きています。サブリースだとオーナーはアパートの経営状態もよく知らずいきなり解約されて手元に戻ってきたアパートは空室だらけの超赤字物件になってたなんてことにもなりかねません(^_^;)
まとめ
建築基準法違反で逮捕されるのって実はそんなに珍しくないんです。毎年のように逮捕者が出ています。
でも、それって上でも説明した建築確認の申請そのものをまったくやっていなかったり、自治体などからの命令を受けてもなお無視していたりといったケースで、単純な手抜き工事で逮捕されたケースあまり多くはありません。
本来は建築基準法に適合しない設計で建築物を建てたり図面と違う施工をすれば、それだけでも罰則が適用できるはずですが、実際にはあまり適用されないんですね。
とはいえ2005年に発覚した耐震偽装問題では担当していた建築士が懲役5年、罰金180万円の実刑判決を受けるという大きな事件になりました。今回の件はそれに匹敵するくらいの重大事件だと思うのですが、今回のレオパレス21の件ではどういった対応になるのか気になるところです。