どうも!きったんです。
出産を間近に控えた嫁ちゃんが30分間隔で痛みが来るというので「すは!もう産まれるのか!!一大事!」ということで3日前から会社を休んで自宅で待機しています。が、まだまだ産まれそうにない感じですね。僕が焦っても仕方ないので気長に待ちましょう。
ところで、先日はてなブックマークを見てたら退去時に敷金を全額取り返した話が人気エントリーのトップになっていました。敷金トラブルって昔からいろんなところで話題になりますよね。業界的にも少しずつ改善されているような気がしますが未だに退去時の修繕や清掃、いわゆる原状回復にかかる費用を入居者からぼったくる業者は多いですからね。
僕は賃貸マンションの経営をする会社でマンションの新築や修繕の技術的な業務を担当しています。現在は営業所勤務でお客様が退去する際の原状回復の査定やお客様への説明も年に80軒くらいはやっています。そんなわけで原状回復の査定に関してはバリバリ現役のプロと言って間違い無いはずです!
そんなわけで今回は現役のプロから見た敷金トラブルに関するアレコレを記事にまとめてみます。
ちなみに弊社は国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や東京都の「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」を尊重して運営してます。それでもトラブルはありますけどね(^_^;)
退去時に入居者負担になる費用はなにか?
通常の住まい方でも発生する損耗は負担しなくて良いのだ!
退去時の原状回復とは入居者が借りた当時の状態に戻すことではありません。人が暮らしていれば家は痛みます。無人の状態ならそれはそれで駄目になりますし。
そこで通常の住まい方でも発生する損耗の修繕費用は賃料に含まれると考えます。なので退去の際に通常の住まい方で発生した損耗の修繕費用を請求したら二重請求ということですね。
じゃあ通常の住まい方ってどんなもんなの?というとこれが難しい。一言で表せるものではありません。そこで国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」などを参考にします。ガイドラインには床・壁・天井などの部位ごとにトラブルになりそうな項目についてオーナー・入居者どちらの負担と考えられるかの例示が載っています。
東京都では条例によりさらに細かい規定があり、より細かい内容が書かれた「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」があります。他の自治体でも同じような条例やガイドラインがあるかもしれないので個別に確認すると良いと思います。
基本的には入居者が過失、または故意に壊してしまったものや、そもそもの原因は入居者ではないものの原因に気がついていながら長年放置して起こった損傷などは入居者負担でそれ以外のものはオーナー負担という感じでしょうか。また、一般的な掃除やメンテナンスをしなかったために起こった汚損(キッチンが油でベトベトとか)や機器の故障も入居者負担とみなされることがあります。
例えば畳や壁紙の自然光による日焼けや変色などは通常の住まい方でも発生する損耗なのでオーナー負担ですが、窓を開けっ放しにして雨が吹き込みカビが発生したといった過失や落書き等の故意による損耗・破損は入居者が負担するということです。
※「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の契約書に添付する原状回復の条件に関する様式に記載された表
僕の経験上、一部にどう考えても通常の住まい方ではないお客様もいらっしゃいます。「あれ!ここ3LDKだよね?なぜか2LDKなんだけど!壁が丸々なくなってんだけど!」みたいなケースもあれば、部屋中とんでもなく汚いとか、あらゆるものが破壊されてるとか、ペット禁止の部屋なのにペットの猫約50匹だけ残してお客様が消えるなんてこともあります。そういうケースでは原状回復の請求額も大きくなります。
ただ、半数以上のお客様が退去された部屋ではかなり細かく査定しても入居者負担になる項目はそれほど多くはありません。特に全部の部屋の壁紙をすべて張り替えるとか、ハウスクリーニング費用は全部入居者負担といった請求のされ方はまず不当な請求です。
入居者の負担は負担単位と経過年数を考慮して決める!
明らかに入居者の不注意で壁紙に傷を付けたとします。その場合は入居者には原状回復義務が発生します。しかし、壁紙の一部に傷がついているという理由で1部屋分の壁紙の張替え費用を請求されたとしたら不当な請求として拒否できる可能性が高いです。
まず入居者が負担する負担の単位というものがあります。壁紙の場合はガイドラインに「㎡単位が望ましいが、賃借人が毀損した箇所を含む一面分までは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえない」という記載があります。
まぁ、一般的に壁紙を1㎡だけ張り替えるようなツギハギみたいな修理はやらないので一面で請求されます。ただ、壁の色が変わってしまうからといった理由で一部屋分の料金を請求された場合には断れるということです。
また、入居者負担には経過年数を考慮しなければいけません。入居者の過失や故意で損傷させた部分であっても、その過失や故意がなくても通常の損耗は起こりますし、通常の損耗にかかる費用はそれまでの賃料で払っていると考えるので、入居していた年数によって負担の金額は減額されるということですね。
経過年数による負担金額の計算は法人税法上の減価償却資産の考え方を準用することになります。壁紙の場合には6年経過した時点で価値が1円になるように計算します。といっても入居者には善良な管理者として注意を払って使用する義務(いわゆる善管注意義務)がありますので無茶はしないでくださいね。
※「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の契約書に添付する原状回復の条件に関する様式に記載された表
通常の清掃をしていればハウスクリーニング代を負担する必要はない
退去時にハウスクリーニング費用を請求されるケースは多いのですが、入居者がきちんと清掃をして退去した場合にはハウスクリーニング費用は支払う必要がないとされています。まぁ、どのくらいきれいにしていればいいのかという程度問題があるのでいろいろと難しいんですけどね。
個人で行うのは難しく専門の清掃業者を入れて行うようなクリーニングは通常の清掃ではないと判断される可能性が高いです。通常以上の清掃をすることで商品価値を高めて次の入居者にアピールする目的だと考えられるからです。
もちろん故意、過失による清掃は入居者負担ですよ。落書きやシールを貼った跡のような入居者がわざと付けないとつかない汚れを落とすとか、管理が悪くてカビが生えているとか、普段からまったく掃除をしていないために油汚れでベトベトになっているとかですね。
僕の経験上は換気扇などをまったく清掃していないお客様はけっこういます。あくまで程度問題ではありますが、そういった個別の部位に特定して「なぜこの部分の費用を請求するか?」を説明した上で清掃費を請求させていただくケースは多いです。どのくらい清掃してあればOKなのかは判断が難しいところなのでピカピカでなくてもそれなりに清掃してあれば請求はしていません。
入居者の負担を定めた特約はほとんどの場合無効になる
賃貸契約書に「退去時のハウスクリーニング費用は入居者の負担とする」とか「壁紙の張替えを入居者負担で行う」などと言った特約が設定されていることがあります。日本では契約自由の原則があってオーナーと入居者の契約ももちろん当事者間の自由なので特約を設定することもできるし、条件を満たせば特約は有効になります。
ただし、すべての特約が有効になるわけではなく、特約が有効かどうかは個別の事情を考慮して判断することになります。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では特約が有効と判断される条件について次のように書かれています。
【賃借人に特別の負担を課す特約の要件】
① 特約の必要性があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること
② 賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識していること
③ 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
つまり特約で入居者に通常以上の負担を求める場合は「この特約では通常負担しなくていい部分の負担を求めていて入居者にとって不利な条件である」ということを事前にきちんと説明して同意を得ていないといけないということです。逆に言えばそこまできちんと説明を受けて同意したのであれば入居者の責任です。
でも賃貸契約の際に不動産屋がそんな説明をすることはまず無いですよね(^_^;) なので実際に裁判で争うことになれば入居者に不利な特約のほとんどは無効と判断されることになります。
もちろんすべてが無効になるわけではありませんよ。例えばペット可のマンションでペットを飼った場合にはハウスクリーニング費用が◯万円加算されるといった条件を予め設定するのは正当な特約とみなされると思います。
敷金トラブルはなぜ起こるのか?
未だに不当な請求をする業者は多い
敷金トラブルの原因のほとんどは退去時に入居者が負担する必要がない費用を請求されることです。入居者は過失や故意がない限り退去時に現状回復に関する費用を負担する必要はありません。ところが実際には壁紙の張替えやハウスクリーニング費用といったものを退去する入居者に請求する業者は多いのです。
1998年に旧建設省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」をまとめるまで通常の住まい方でも起きる損耗はオーナー負担というのも特に明文化されたものはありませんでした。それ以前はまともなルールは無い状況で、通常の損耗も入居者に請求するというのが当たり前になっていたのです。
裁判になれば通常の損耗はオーナー負担と判断される流れはできていましたが、あくまで裁判になれば入居者側が有利というだけの話なので業者側が積極的に入居者への請求を減らす理由はなかったわけです。
さらに現在は国土交通省や各自治体がガイドラインなどを示しているとはいえあくまでガイドラインであり、それ自体に法的な拘束力はありません。退去時の原状回復に係る費用の負担は民間の話し合いで行われるもので特に業者にたいして取り締まりが行われているわけではありません。
なので業者側も言ったもの勝ちの状態でガイドラインが示される前の基準を改めないでそのまま請求をしているケースが多いわけです。
負担区分について知識がないオーナーが多い
不動産業者でガイドラインの存在を知らないというところはそうそう無いと思いますが、個人のアパート経営者などではそもそも敷金の取り扱いや原状回復に係る費用の負担を入居者とオーナーもどちらがするべきかといった知識がないことが多いと思います。アパートのオーナーになるのに特別な資格とかはいりませんからね。
そうなると入居者も知識がない、オーナーも知識がない状態で話し合いがなされるわけですから適切な負担区分になるわけがありません。オーナーの性格次第ですが取れるだけとってやろうと思う人なら原状回復に係る費用は全額請求しようとしてくるでしょう。
僕も個人所有のアパートなどの管理にも関わることがありますが、プロの不動産屋と違って個人のオーナーの場合は正直ガイドラインなどを提示しても自分の要求ばかりで話にならない人もいるのでそういうオーナーに当たると悲惨ですね。
「これは入居者へは請求できないのでオーナーさんの負担になります。」と説明しても「俺は払いたくないからなんとか入居者から取ってこい」みたいなことをいう人ってたまーにですけどいるんですよね。僕は仕事でやってるので淡々と説明して終わりにしますが、個人の入居者さんがこういうオーナーと当たると断りきれないだろうなぁと思います。
敷金が返って来なくても文句を言わない入居者が多い
僕としては意外というか未だに信じられないのですが、アパートなどを借りている側も敷金って返ってこないもんだと思っている人が意外と多いんですよ。なので敷金以上の修繕費用を請求するとトラブルになるものの先に預かっている敷金の範囲内なら多少修繕費をボッタくってもすんなりと話がまとまってしまうケースが多いんだろうと予想しています。
こうした賃貸住宅の敷金や礼金の制度には地域差が大きく、地域によっては昔から敷金をボッタくる業者が多かったのでそれが当たり前になってしまっているというのもあると思います。それに、長く、それこそ何十年も住んでいたようなケースだと敷金を預けたことすら忘れてたりしますしね。
なので敷金はうまく説明すれば返さなくて良いお金という認識の業者やオーナーがいても不思議ではありませんね。
敷金はどうやれば取り戻せるのか!
敷金を取り戻すのに必要なのはとにかくきちんと話すことです。ガイドラインを確認して払う必要がない費用であればそれをきちんと伝えることです。
不動産業者側は請求して払えばラッキーくらいに思っていて、ガイドラインなどの根拠を示して断ればサクッと折れることが多いものです。わかってやってるんですよね。だから事前に調べて反論してくるような相手なら不当な請求はしてきません。
あとはゴネる力です。
一部の例外(とにかく部屋をめちゃくちゃにしているような入居者のケース)を除けば原状回復に係る費用は数万〜数十万円くらいのものです。それで裁判なんてやってられません。
裁判なんてやったら早くて半年、通常は2〜3年の期間と高額の費用がかかり勝っても負けても大損です。60万円以下の請求額であれば少額訴訟という方法もありますが、お互いの同意がなければ通常裁判に移行することになります。
なのでガイドライン云々より「裁判でもなんでもやってやる!俺は絶対に納得しないぞ!敷金は全額返せ!」と言い切ってゴネればよほどのことがない限りは敷金は全額返ってきます。
もちろん個人的にはおすすめはしませんよ。ガイドラインに則って適切な費用負担であればちゃんと支払って気持ちよく退去するのが一番です。
まとめ
アパートやマンションを退去するときの敷金トラブルがなぜ起こるのかを記事にしてみました。現状はオーナーが負担すべき修繕費用を入居者に請求するケースがまだまだ多くあるんですね。
本来であればこうしたトラブルにたいして取り締まりをしてくれる機関があればよいのでしょうが国土交通省のガイドラインでさえ少額訴訟などの制度を勧めているだけですから。。。
ちなみに、僕はここ数年で4度引っ越しをしています。うち3回は大手の管理会社が管理している借家の退去をしているのですが退去の立ち会いのときに僕と嫁ちゃんの仕事をそれとなく伝えたらすべて費用負担ゼロ、敷金は全額返してくれました。まぁそんなもんですね。